わたしが良い塩梅を探究し続ける理由

着心地の良い服は、日々の豊かさにつながっている

西山さんがモデリストとして、最もこだわっておられる点はどういったところでしょう?

ご依頼いただいた仕事の結果、お客様の手元に届いた服の「着心地の良さ」に一番こだわっています。

 

エンドユーザーに感じていただける「着心地」って本当に大事なんです。

 

自分の体に合った「着心地の良い服」だと、「着こなし」も自然とよくなります。そうするとその人の魅力がより発揮されるんですよね。

そして、何よりもその人の気分が上がる…そのちょっとした手応えの積み重ねが、日々の暮らしの豊かさにつながるはずなんです。


感性と対話の積み重ねが、長く愛される服を作る

そういうお考えにおいて、西山さんが担っておられるのは、どういう部分ですか?

寸法などのスペックも大切ですが、服作りに携わる私たち自身が「感性」を大切にすることで、着ている人の永続的な満足度を高めていく服作りを担うことができるのではと考えています。

 

もちろん上代によっても着心地も変わりますが、服作りのプロセスにおいて、それぞれの持ち場の連携が、着心地の良さを築くものです。

 

私たちは、デザイナーの意図も汲み取り、パターン技術やサンプル作成を通じて、感性を研ぎ澄ましてコミュニケーションを円滑にし、縫製技術に着心地のよさの「息吹を吹き込む」ことを心掛けています。


縫製工場さんとのコミュニケーションも大変なのではありませんか?

もちろん、苦労もありますが、着心地の良さは、縫製技術があってこそのものですから、大変だからと言って蔑ろにするわけにはいきません。

 

私は、生産管理の業務経験があります。コスト計算や資材と製品の在庫の把握、生地発注のプロセス、縫製工場との調整の経験が今に活きています。

そしてアイロンテクニックやダーツ処理などの服を丸く作る縫製工場の技術も把握しています。そのため、縫製技術を織り込んだパターンを作成し、仕様書で指示することが可能です。

 

縫製工場さんと仕様をしっかりと打ち合わせさせていただくことで、お客様の着心地につながり、長く大事に着る服になると考えていますので、しっかりと「対話」を積み重ねて、真摯に向き合わせていただいています。


苦い経験やイタリアで得た達成感を経て辿り着いた、服作りの理想のカタチ

そこまで「着心地の良さ」にこだわるキッカケがあったのですか?

まだ、駆け出しの頃に、とても苦い思いをした経験があります。

デザイン画をカタチにできなかった時の事です。

あまりに恥ずかしい話ですが…腕が上がらない服を作ってしまった経験があります。量産体制に入ってしまった段階で気付き、自分の能力の低さを感じた時は、本当に苦しかったですね…辛かった。

 

そこからは、寸法を測るのはもちろん、エンドユーザーさんが着てもらうことをイメージして、「自分の中の目安の寸法」を持つようになりました。


その時の苦い思いが、今に活きているのですね? 逆に嬉しかった事が今も活きていることは?

イタリアでのファッションショーが終わった後、仲間たちと称え合った時ですね。

それまでにぶつかり合ったり、協力し合ったり、紆余曲折ありましたが、皆と達成感を味わった瞬間が一番嬉しかったです。

 

日本でも、単なる事務連絡的な関係性ではなく、イタリアの服作りと同じようにチームでディスカッションをして、良いものを作り上げたいと思っています。

今後も、同じ想いを持った方を一緒に仕事ができたら嬉しいんです。


個々が感性を持ち、意見をぶつけ合うことが、お客様第一主義への道

イタリアでモデリストとしての腕を磨いてこられたのですね? イタリアでの服作りにおいて、日本には無い素敵なところと感じた点はありますか?

日本の服作りの技術力は、世界的にもレベルは高いとは言われていました。それが、本当なのか自分の目で確かめるべく単身でイタリアへ渡りました。

そこで感じたことは、日本の服作りは丁寧で綺麗、だけれども感性が不足しているということでした。

 

つまり、デザイン画をカタチにするパターン技術、縫製技術は持っていますが、「良い塩梅」が苦手なんです。そこが感性の部分です。

イタリア語で職人のことを「artigiano(アルテジャーノ)」と呼びます。言葉の中に「art」が入っているんですね。

 

…ですので、縫製技術者が技術力だけでなく、感性を持ち合わせています。そのため、パタンナーが持ってきた仕様書通りにしないことは日常茶飯事なんです。

こっちの方が良い仕上がりになると思ったら、デザインには影響しない範囲で変更することがよくあります。


指示書にはないことを現場で判断する「責任感」というか「気高さ」を感じますね。

これは、ものづくり文化の違いが表れているのだと思います。

日本は言われたことはやりますが、指示されていないことはやりません。感性として縫製技術が不足しているという印象です。

 

イタリアでは仕上がりさえ良ければOKなんです。そこにチーム力も影響しています。よくぶつかり合っていますが、コミュニケーションを常に取り合っているんです。そして最後にはお互いの技術力を称え合っている光景をよく見かけました。

 

私はそれがしたくて会社を立ち上げました。日本のアパレル業界内で、チーム力を持った服作りが浸透したら、お客様第一主義になると思っています。もちろん、日本では了解もなく現場判断ということが難しいのは理解しています。

だからこそ、コミュニケーションを大切にしているのです。


しかし、そういう心意気の全てが「着心地の良さ」への想いがあるのですね?

イタリアの服作りにおいて、とても印象的だった日本との違いがもう一つあります。

 

それは、検品の仕方です。

日本の検品は寸法を測って終わりなのに対し、イタリアでは寸法を測った上で実際に着て着心地を確認するんです。

 

自分が納得いくものをカラダで感じてから、自信をもって市場に出すという姿勢ですね。


想いを分断することなく、お客様の手元へ届ける。

そのために私たちができること

最後に…西山さんが考える「モデリストのあり方」とはどういったものでしょう? 理想論でも構いませんのでお教えいただけますか?

長年の経験から、私が考える“モデリストの役割”とは“橋渡し役”だと考えています。

 

モデリストとは、アパレル産業を支える専門職の一種です。企画者であるデザイナーの制作意図を把握し、縫製方法を考えてサンプルを作成します。

それらを元に裁断や縫製を縫製工場に依頼する仕事です。

 

デザイン、素材に関する知識や縫製技術を習得していることが基本で、さらにコスト計算や工場の管理を理解する必要があり、俗に言うとスーパーマン的な役割を担っています。

 

日本でもイタリアでも分業が当たり前になっていますが、レンモーダスタジオでは、主に型紙の作成から工場や縫製技術者に仕様の提案、依頼までを一貫して行っています。

 

私たちは、縫製工場の管理までは行いませんが、今まで積み重ねた知識や経験がありますので、ご相談をお受けすることはできます。デザイナーと生産管理の真ん中にいることもあれば、生産管理と工場との話し合いにも参加することができます。

幅広い知識力、技術力、経験を持ったモデリストが様々な職種との橋渡しを行うことで、デザイナーの想いが分断されることなく、生活者のもとへ商品が届くことになります。

そうしたモデリストのあり方に、私の立ち位置があるのではと、今でも勉強し続けています。


西山さんご自身…勉強は続くのですね?

はい。依頼されたカタチを具現化するためには日々勉強する必要がありますね。

 

流行や求められるシルエットが時代によって変わってきますから…そういう意味では、業界の中でのモデリストの一番の役割は、「常に成長し続けること」とも言えると思います。



西山雅奈江(にしやま・かなえ)プロフィール

父がダムの設計をしていた影響から、ものづくりが好きな幼少期を過ごす。金融機関に就職したのち、退職。ものづくりへの想いを断ち切れず、昼間はアパレルメーカーで勤務しながら夜間は専門学校にて知識を身に付ける。

その後パタンナー兼生産管理の職を11年ほど続けた後、講師としてパタンナーについて7年教えるも「日本の技術力」について自分の目で確かめるべく、単身イタリア・ミラノへ渡る。

GIANFRANCO FERRE'のサルトリアでモデリストとして勤務後、帰国しアパレルメーカー勤務の後RenModaStudioを立ち上げる。